山頂記録2018.9.11

9月11日 am7:00 2018最終回
気温 : 6.4°c
風 : 弱い
視界 : 良好
すっきり晴れ。すっかり秋。すぐそこには冬。今日明日は気持ちのよい青空が見えそう。

山に行けばいつも何か新たな発見に出会えた。いつも、いつも。
季節は秋、雨上がりの鮮やかな青空に立ち尽くす鳥海の頂には、雨の前にはなかった雪がてっぺん付近を白く塗りつぶしていた。
今年最初の冬の精霊に、初めて買ったピッケルを刺してみたい。
ただそれだけだった。
天気は下り坂、先日登ったばかりのルート、朝早く上がり山頂にて事をなし、天気の崩れる夕方前に降りる。
計画はそれだけ。
登りは順調、体力には自信があり、あっという間に目的地の山頂小屋へ、想像以上の気温差、今まで見た事もないような足跡の一切残らない発泡スチロールの粒のような雪、そして気づいたら深い深い無風の中を漂う雪のように白いガスの中だった。
小屋から帰り道のある外輪へ続く鎖場まではほんの10分程度、建物をほんの少し離れるともう足元の自分の靴以外は見渡す限り白の世界、俗に言うホワイトアウト、物音がして振り返ると自分が元々どちらを向いていたかわからなくなった。
ダメだ、方角がわからない、一度小屋に戻ろう、あれ、小屋はどっちだ、まてよ、今振り返ったから、、、、。
そんな事をしながらもう2時間以上も同じことを繰り返していた、計画ではもう半分以上下山を済ませている時間。夜が迫っていた。
不思議なほど静まり返っていて、自分の心臓の音が聞こえるようだった。すぐ頭上で雷の重低音が響く、落ちるとしたらこのピッケルか、立ち止まっているのに鼓動が早まり呼吸が乱れる、落ち着け落ち着け吸って吐いて吸って、、、過呼吸、めまい。

死にたくない。

死にたくないと思った。
家に帰りたい、死にたくないと思った。

結局鎖場は見つからず使い方も知らないピッケルを全力で岩壁に刺して外輪の壁を登った。登りきり道を確認しようと歩くとほんの5mほど横が鎖場の山頂へ向かう入り口だった。
もう陽が落ちる時間、雨と雷の鳴り響く夜の登山道を走って降りた。
登山口近くに着く頃にはもう真っ暗だった。
今にも熊が出そうな嵐の中のブナの森を駆け下りながら、ヘッドライトを照らせば何となく見える道がありがたかった。
あの、自分の姿以外何も見えない白の世界に比べたら。

俺はまだ何も知らない。

死を意識した時、
詩を意識する余裕はなかった。
死ぬ寸前に世界最高の詩を俺は叫ぶだろう、そう思っていたのに、俺はまだ何も知らない。

自分が何も知らない事を知った、とても貴重な山行きとなった。

30さいをあっさり迎えた、全然死ななかった。
世界最高の詩を思い浮かぶ事も無かった。

それから9年目の今日、未だにそのたった一遍の詩を求め生きている。
毎年2ヶ月半も人里を離れ、自分と、自分たった1人と向き合いながら。
今年の山はこれまでになく天気が悪く、何日も小屋に閉じ込められる日が続いた。
営業期間も終わり、小屋締めも終盤、今日は久しぶりに晴れた。
自分が目覚めた小屋を出ると、久しぶりの晴天を昇り立ての太陽が外輪を越えて顔を出していた。かつて迷い彷徨った鎖場と道標が目の前にはっきりと見える。

今年も素晴らしい、本当に素晴らしい夏山の日々だった。

生きてたらまた来年。

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