山頂5時半くもり
気温12.0度
風弱い
視界良好
雲が漂う穏やかな朝。
2019.8.22
〜さかなやさんと俺エピソード4〜
さかなやさんは毎晩記憶をなくしている。
毎晩毎晩かかさずに。
泊まり客の夕食を出し終えて1日の仕事は終わり、毎晩そこからスタッフの晩酌がはじまり、誰かが酔い潰れる頃お開きとなる。
昼間から隠れて酒を呑んでいるさかなやさんも晩酌となると堂々としたもので、金色の持ち手の上等なマイカップに日本酒を並々と注ぎ時間の許す限り呑み続ける。
そして決まって途中からの記憶を無くしているようだった。
会話も行動も夜が深くなるにつれ記憶から消えていくようだった。
そんな彼だがその状態で寝床に移動する前に、必ず忘れずにしておく毎晩の習慣がある。
もちろんその記憶は次の日の朝には完全に無くなっている。
しかしその行いを忘れることはない。
彼は自分の上等なマグカップに並々と日本酒を注ぎ、それに口をつける事なく寝床に向かうのだ。
そして次の日の朝、その全く身に覚えのない並々と注がれた日本酒を見つけては、
「わい、宿題残してしまった」
と、つぶやいて。
ニヤッと口元を緩ませてごくごくと酒を吞み干すのだった。
さかなやさんは毎朝この日本酒スタートの日課をけして忘れない。
つづく。